研究概要 |
I: ゲノム不安定性に関して 11例の肝細胞癌(HCC)とその周辺非癌部(SL)、ならびに10例の非担癌慢性肝疾患肝組織(NC)に関して、18の蛍光標識マイクロサテライトマーカーを用いたマイクロサテライト不安定性(RER)とアレル不均衡(LOH)の評価を行った,HCC中のLOHはアレル間の多型が評価可能な142マーカー中25マーカーに認められ、その頻度である17.1.±12.8はSLにおける8.6±10.5とNCの2.5±4.2に対して有意に高率であった(P=0.01,P=0.001)。これらの癌部における高い頻度は、HBV,HCVの別に関係しなかった。SLの頻度は,NCに比較し高い傾向にあった(P=0.15)。HCCとそのSL,ならびにNCを比較すると、HBV関連の症例で有意にHCV関連の群に比較しLOHは高頻度であった(P=0.04)。HCCにおけるLOHはすべてのマーカーに一律に生じるのではなく、D2S123,D8S1106,D9S266,D15S165,D16S748の書くマーカーに高頻度に認められた。また、D2S123,D8S1106,Dl5S165におけるLOHはSLにおいても高頻度に認められた。 一方RERの頻度は全体として非常に低い値であった。RERの頻度はHCC、そのSL、NCの順に高頻度となったが、各群間に有意差は認められなかった。RERの頻度にHBV、HCV間で有意な差異は認められなかった。RERは特定のマーカーに高頻度に認められることはなかった。 II: テロメア長変化に関して 15例のHCCと10例のNC、さらに5例の非慢性肝疾患肝組織(NS)を用いて相対テロメア反復単位数(RTC)を測定した。RTCはNC(0.89±0.15)においてNS(1.1±0.074)に比し有意に減少していた(P=0.03)。さらにSLにおけるRTC(0.68±0.16)はNCに比し有意に減少していた(P=0.02)。RTCの値とHistology activity indexスコアーとの間に有意な相関は認められなかった。また、HCCにおけるRTCの値と組織学的門脈浸潤度との間に有意な関係は認められなかった。 以上の結果より、ゲノム全体を対象としたLOHの頻度の定量的評価とテロメア長の変化量の定量的評価は、慢性肝疾患患者における肝細胞癌発癌のリスクを示す指標となる可能性が示唆された。
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