研究概要 |
筆者らは、星細胞特異的に発現するRNA結合蛋白,PCPEをクローニングした。本蛋白は,星細胞が活性化して筋線維芽細胞様に形質転換すると発現が増強し,発現を抑制すると,活性化星細胞における蛋白合成が低下した。従ってPCPE蛋白は転写後のRNA制御を介して蛋白合成を促進するが,その意義は星細胞の形質転換に関与すると推定された。本研究,このRNA結合蛋白の意義を各種増殖因子との関連も含めて明らかにすることから,星細胞活性化機構を分子レベルで解明することを目指した。まず,各種増殖因子と星細胞機能の関連を検討した。活性化星細胞にPDGFを添加,24時間後にBrdUと平滑筋αアクチンの二重染色を行うと,細胞周期がS期の活性化肝星細胞では細胞特異機能である平滑筋αアクチン発現が低下することが判明した。また,非活性化星細胞はVEGF受容体,flt-1,KDR /flk-1を発現するが,活性化すると,flt-1の発現は増強,KDR /flk-1の発現は消失した。星細胞にVEGFを添加すると,増殖能やコラゲン合成は変化しないが,活性化星細胞では平滑筋αアクチン発現が減弱し,収縮能が抑制された。 活性化星細胞にPCPEのantisenseを添加した36時間後の総RNA量は変化しなかったが、12時間後にアクチノマイシンDを添加しRNA転写を抑制すると,総RNA量の半減期は有意に短縮した。従ってPCPE蛋白はRNA安定化作用を有していると考えられた。 以上より,星細胞の活性化機構は細胞集団ではなく,個々の細胞レベルで評価する必要があると考えられた。その際,VEGFの影響も検討する必要があると思われる。また,PCPE蛋白は星細胞において,RNA安定化作用を有することが明らかになり,各種増殖因子の細胞内情報伝達とPCPE蛋白の接点を解明することが今後の課題である。
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