研究概要 |
肝類洞内皮細胞の再生機構を明らかにする目的で,その増殖因子であるVEGFの発現をラット肝で検討した。部分切除肝,障害肝及び冷保存肝における検討から,肝細胞は再生時や虚血下で,Kupffer細胞,肝 macrophage,星細胞などの類洞壁細胞は活性化すると,VEGF発現が増強することを証明した。但し,活性化類洞壁細胞はVEGF以外にPDGFやbFGFも産生しており,血管内皮細胞の増殖から肝線維化,類洞の毛細血管化を生じるのに対して,類洞の再構築には再生肝細胞由来のVEGFが必須であった。そこで,画像検査所見から肝再生不全と診断された劇症肝炎症例で血漿VEGF濃度を測定したところ,全例で検出感度以下であることが判明した。従って,肝におけるVEGFの発現不全及びこれに伴なう類洞内皮細胞の増殖遅延が,循環障害の持続から肝再生不全の要因になり得ると推定された。 また,虚血時には類洞内皮細胞におけるVEGF受容体の発現が早期から消失し,これが類洞内皮細胞障害の要因になることを見出した。更に,内皮細胞におけるVEGF受容体の発現は,組換え型VEGFを添加することで増強することを明らかにした。以上より,肝微小循環障害が生じている劇症肝炎では,VEGFをexogenousに補うことにより,類洞内皮細胞の保護を期待できると考えられた。また,この補充療法は,類洞内皮細胞の増殖促進から,肝再生不全への進展を防御するためにも有効と推定された。 更に,VEGF受容体は類洞内皮細胞のみならず星細胞にも発現しており,星細胞は,VEGF添加で収縮が抑制されることを見出した。劇症肝炎では組換え型VEGFの投与により,星細胞の弛緩から類洞血流が増加し,微小循環障害を改善できる可能性も明らかとなった。
|