研究概要 |
肝芽細胞腫継代培養株(HepG_2細胞)を種々の酸素濃度下に培養した.VEGF産生量については、培養液中の蛋白量として抗ヒトVEGFモノクロナール抗体を用いて定量化した.VEGF遺伝子よりのmRNAの産生については、4種のVEGF mRNAすべてに共通するプライマーを使用し、HepG_2細胞より分離したRNAを鋳型としたRT-PCR法で分析した.低酸素培養にて、分泌型VEGFの蛋白レベルの放出とmRNAレベルの発現の著明な増加が確認された.VEGF受容体の変化をみるために、まず、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を培養し、培養液を、HepG_2細胞の正常酸素下細胞上清と低酸素下培養上清にかえて、24時間正常酸素下で培養した.この時、VEGFの内皮細胞上に発現するであろう受容体(flt-1,KDR)の発現について検討した。この結果、flt-1の発現は、低酸素下HepG_2培養液では、有意に増強した.また、この受容体発現の増強が、VEGF自体のhomologousな作用か間接的な作用かを確認するために、低酸素下培養液中にVEGFのmRNAのアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを前処置し、VEGFを低下させた低酸素下培養上清でHUVECを培養したところ、flt-1の発現は抑制されず、VEGF以外の低酸素下培養上清中の物質によって、VEGF受容体発現が誘導されることが考えられた.また、flt-1のmRNAに対応するリボプローブを作製し、RNase protection assayを施行し、flt-1の発現は、低酸素暴露HepG_2培養上清でのHUVEC培養で著明に増加し、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを前処置した低酸素暴露HepG_2培養上清でのHUVEC培養では抑制されないことを確認した.肝癌細胞より分泌されるVEGF産生、分泌が、低酸素侵襲により増強され、同時にその低酸素下で分泌されるVEGF以外の液性因子を介して内皮細胞側受容体の発現を増強するがわかり、腫瘍細胞自体の相対的酸素欠乏が腫瘍血管新生の重要な調節因子であることがわかった。一方、肝硬変を伴う肝細胞癌で肝動脈化学塞栓療法(TAE)を施行された患者の血清を施行前後で採取し、血清VEGE,HGEを測定した.これによれば、AST,ALT,LDH値のピークの生ずる早期ではなく、7日後にVEGF値が上昇することがわかった.このVEGF値は、肝細胞増殖因子(HGF)の血清値とTAE前には有意に相関するものの、TAE後には相関は消失することがわかった.肝細胞癌患者血清中のVEGF値が、TAE後、AST,ALT,LDHのピークの消失した7日後で有意に上昇することがわかり、治療経過の一つの指標としての有用性が考えられた.以上のことから、将来、VEGFやその受容体に対して局所的遺伝子ターゲッティングをすることは、肝癌の増生阻止に有効である可能性が示唆された。この場合、遺伝子治療のルート確保のインターべンションの際の肝灌流低下状態には、充分注意する必要があることも考えられた。
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