研究概要 |
オキシダントは種々の肺疾患の病因に重要な役割を果たしており,細胞内シグナル伝達経路を修飾することによって,細胞の増殖や死を制御していることが知られそいる.一方,アポトーシスは正常の肺構造の維持やある種の肺疾患の病因に関与していることも知られている.そこで,まず細胞内オキシダントストレスが線維芽細胞のアポトーシスをもたらすかどうか,その場合のメカニズムは何かについて検討した.還元型glutahione(GSH)はアンチオキシダントとして知られているが,線維芽細胞をGSHの前駆物質であるシスチン欠乏培地で培養すると,細胞内活性酸素は時間とともに増加し,細胞死も増加するのが観察された.この線維芽細胞をHoechst33342あるいはTUNEL法により染色すると,細胞死はアポトーシスであることが判明した.このアポトーシスは培地にGSHを添加することにより有意に抑制されたことから,線維芽細胞のアポトーシスのシグナル伝達には,細胞内活性酸素が関与しているものと考えられた.細胞内活性酸素の産生は,シスチン欠乏培地にリポキシナーゼ阻害薬(NDGA)を加えると抑制されることから,リポキシナーゼ代謝産物由来であることが推察された.細胞内シグナル伝達に関してはWestern blot法を用いて検討した.シスチン欠乏培地による培養で,p38-MAPKの発現が増強していたことから,アポトーシスの細胞内シグナル伝達にはp38-MAPKの経路が関与していることが推察された. 次に,線維芽細胞を培養し,その一部をscratchしてwoundを作成し,シスチン欠乏培地で置換することによりオキシダントストレスの状態に晒すと,scratchした周囲の線維芽細胞は活性酸素の産生が増加し,アポトーシスに陥っていることが観察された.以上より,オキシダントストレスは傷害の修復には不利な要素として働くことが示唆された.
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