研究概要 |
タイラー脳脊髄炎ウイルス(TMEV)を感受性SJL/Jマウスの大脳半球に接種し免疫性脱髄疾患(TMEV-IDD)を誘導した。このモデルはヒト多発性硬化症(MS)のウイルス動物実験モデルである.この系に抗ICAM-1モノクローナル抗体(mAb),抗LFA-1mAbなど接着分子に対するmAbを投与し疾患に対する影響をみたところ、抗接着分子mAb投与群では、ウイルス特異的CD4陽性Th1細胞の誘導が強く抑制され、脱髄疾患が抑制されることが証明された。Th1細胞の誘導にはILl2が主要な役割を果たすとされている。TMEV-IDDに抗IL12mAbを投与しIL12をブロックしたところ、とくにeffector期投与群で疾患の抑制がみられ、この群ではTh1系サイトカインの抑制とTh2系サイトカインの亢進が証明された。さらにThl系サイトカインに対し抑制的に作用するフォスファチジルセリン、ベントキシフィリンなどの薬剤を投与したところいずれもウイルス特異的CD4陽性Th1細胞が抑制され、脱髄疾患の発症も抑制された。またTh1-Th2バランスもThl系が抑制されていた。また実際MS血清高感度ELISA法で調べたところ急性期にはTh1優位であった.以上の研究よりTMEV-IDDは抗原提示細胞の接着分子をブロックし,ウイルス抗原に対し免疫学的寛容状態にしたり,ヘルパーT細胞のTh1-Th2バランスをTh2優位にすると疾患が抑制されることが明らかになった.これらの知見は完全な再発予防法がない多発性硬化症の今後の治療法を確立する上で極めて重要なものと考える.
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