研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症の病態を十分に解明するために運動ニューロン系の変性過程の理解が必要である.磁気刺激や電気刺激が単一運動単位への発火パターンに及ぼす影響を検討することで運動ニューロンの変性過程の情報を得ることができる.本研究では脊髄運動ニューロンのシナプス部の病態検索に加えて,脊髄前角運動ニューロン自体の変性、および脳幹運動ニューロンの病態についての情報を得ることを目的として,従来の磁気刺激による手筋の記録に加えて,瞬目反射を利用した脳幹運動ニューロンの検索をおこなった。 初年度はソフトウエアの開発を主眼とした。最終的に1)peristimulus time histogram analysis、2)frequency analysisをPC上で容易に行えるプログラムのプロトタイプをC言語を用いて作成した。2年目はこのプログラムを用いて正常者,筋萎縮性側索硬化症患者,パーキンソン病患者の手筋,眼輪筋よりデーターを集積した.具体的には頭部磁気刺激によって手筋の運動単位や三叉神経電気刺激で生じる眼輪筋の運動単位の興奮性変化を解析した.正常者とパーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症患者について記録し,筋萎縮性硬化症の脊髄運動ニューロンは興奮性が上昇しており,正常では賦活されにくい遅い皮質脊髄路ないし多シナプス系が賦活された。またパーキンソン病患者の顔面神経運動ニューロンも正常対照群に比して,興奮性の上昇をみとめた。筋萎縮性側索硬化症の顔面神経運動ニューロンでは興奮性の増大のほか興奮後の抑制増大もみとめられた。 以上の結果は,筋萎縮性側索硬化症では残存する運動ニューロンの興奮性が一般に上昇しており,このことが本疾患における最終的な細胞死と関連するものと推定される。
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