研究概要 |
本研究の目的は,慢性心不全の増悪の主要因である交感神経活動の中枢性亢進機序の解明とその治療にある。 1)慢性心不全における呼吸性交感神経制御の異常 健常者では,中枢神経系の交感神経活動は呼吸中枢と連動して吸気時に亢進するが,同時に肺の伸展を介して反射性に制御される。慢性心不全では心拡大あるいは肺のコンプライアンスの低下により一回換気量が制限され,これによる肺の伸展制限が交感神経活動の抑制効果を減弱させていることが観察された。また重症例では肺を十分伸展させても抑制できないほど交感神経活動を亢進させている,他の要因が存在することが示唆された。 2)慢性心不全における睡眠様式と自律神経活動 慢性心不全患者における交感神経機能と睡眠様式との関連性を明らかにし,心不全の病態に中枢神経系がいかに関わっているかを検討した。心拍変動と高振幅除波睡眠は高い同調性を示し,睡眠中の副交感神経活動が睡眠様式と密接に関連することが示唆された。一方,交感神経活動は周期性無呼吸とこれに伴う低酸素血症と密接に関連した。 3)中枢性交感神経遮断による心不全治療 中枢性交感神経遮断薬は,交感神経遮断だけでなく副交感神経活動を賦活する作用を持つため,心不全に対して理にかなった治療法となる可能性がある。そこで,慢性心不全患者において,中枢神経系を標的臓器とした交感神経遮断療法の有用性を検討した。α2受容体刺激薬により心不全患者の安静時交感神経活動は明らかに抑制された。中枢性交感神経遮断は交感神経活動の亢進した心不全において,自立神経バランスの改善,圧利尿や血管拡張作用など減負荷効果が大きく,また効果の発現も早かった。 以上より,慢性心不全においては,中枢神経系が交感神経活動の亢進に大きく関与しており,中枢性交感神経遮断療法は,比較的重症な心不全に対して新しい治療手段となる可能性がある。
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