研究概要 |
(目的)近年、心拍変動はしばしば心血管系調節機能の指標として用いられる。しかし、その解析手法・計測値の評価・臨床応用に際しての注意点などに関しては、十分な検討がなされていないのが現状である。そこでこの研究ではまず心拍変動の正常値を評価し、次いで冠動脈疾患における臨床応用の利点と注意点を検討した。(対象と方法)正常血圧健常者(3歳から92歳までの男性222名と女性117名)と30歳から88歳の男性冠動脈疾患患者66名を対象にした。自由行動下にてホルター心電図の24時間記録を行い、24時間心電図記録からまず心拍変動の正常値を求め、次いで時間医学の立場から冠動脈疾患心拍変動の特徴を抽出した。心拍変動の指標として、時間領域解析(SDNN,r-MSSD,RR50,pNN50,SDANN,SDmean)、周波数領域解析(LF、HF、LF/HF)、フラクタル解析(相関次元CD、500秒を 4Hzで再 サンプリング、4時間毎)、複雑性解析を行った。統計処理にはone-and two-way ANOVAと6次のstepwise linear regressionを用い、p<0.05をもって統計上有意とした。(結果)健常者においては心拍変動の各指標は、男女とも加齢とともに減少した。またHFとCDは夜間大きく昼間小さい概日リズムを、LF/HFと複雑性は夜間小さく昼間大きい概日リズムを示した。冠動脈疾患患者のSDNN、SDANN、TF、LFならびにCDは、対照健常者に比し有意に小であった。冠動脈疾患患者の心拍変動の各指標は、LFとCDだけが加齢とともに減少した。冠動脈疾患を1枝病変群と多枝病変群に分けた検討では、心拍変動のSDNNとSDANNの低下の程度に群間差が観察され、多枝病変群で小であった。(結論)冠動脈疾患における心拍変動の異常は、SDNN・SDANN・TFと非線形性を表現するCDに観察された。冠動脈病変の程度と心拍変動との関連に関する検討では、その有意差はTFにではなくLFに観察された。
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