研究概要 |
プロピオン酸血症は、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(PCC)欠損により引き起こされる有機酸代謝異常症である。PCCはα、β2つのサブユニットからなる複合酵素で、本症はいずれかのサブユニットの欠損により発症する。今回我々は6例のα鎖欠損患者の遺伝子解析を行ない以下の結果を得た。cDNAの解析では5つのミスセンス変異(R52W,Q272R,R374Q,P398L,W534L)と、2ヵ所の欠失(111bp del.,nt.1355-1465;103 bp del.,nt.1466-1568)、さらには3人の患者(168、330、409)ではnt.1209と1210の間に84bpの挿入が検出された。ゲノムDNAの解析で111bPの欠失に関してはその下流のイントロンの5′スプライス部位のG^<+1>→A変異が認められ、これによるエクソンスキッピングと考えられた。cDNA上で84bpをはさむプライマーを設計し対照及び6名の患者でPCRを行なったところ、患者330と409では正常のPCR産物(=216bp)に加え84bpの挿入をもつ300bpの産物が検出できた。驚くべき事には正常対照においても正常産物に加え300bPの産物がわずかながら検出できた。この84bp挿入のメカニズムを明らかにするためゲノムDNAを解析したところ84bpはイントロン中に存在しており、その5側と3側にはエクソン-イントロン接合部のコンセンサス配列であるAGとGTが存在していた。この領域を患者330、409で検索したが変異は見い出せなかった。84bpの挿入は正常でもわずかに生じるaberrant splicingであり原因変異ではないと考えられた。 次に、約2.0kbのαPCCcDNAをトランスファーベクターpBac3にサブクローン後、このプラスミドDNAlμgと直鎖状バキュロウイルスベクター0.25μgを混合しHigh Five細胞に加えて27℃で3日間培養し、αPCCを持つ組換えウイルスを作成した。この組換え体ウイルスを昆虫細胞に感染させ、5日間培養後その上清を回収しαPCC蛋白質の発現をウエスタンブロット法でチェックしたがαPCC蛋白質は検出されなかった。今後ベクター、昆虫細胞の培養条件、トランスフェクションの条件等をさらに検討する必要がある。
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