研究概要 |
近年,ミトコンドリアDNAの欠失・重複や点変異などの異常により種々の重篤な神経疾患あるいは全身性疾患が引き起こされることが明らかにされた.しかし,その治療に関しては一部の症例において試行的な薬物療法が行われているのみで,多くのミトコンドリア遺伝子異常症に対する効果的な治療法はいまだ開発されていない.本研究ではミトコンドリア遺伝子異常症の中で,Leigh脳症を例にとり,その遺伝子治療の可能性について基礎的な検討を行った. ゲノムDNAとミトコンドリアDNAは一部コドンが異なるため,細胞質内で正常ATPase6蛋白が合成されるようにするためにミトコンドリアATPase6遺伝子の塩基配列をPCRを用いて修正した.修正ATPase6遺伝子の5'側にミトコンドリア内輸送のためのleader sequenceを連結した.この遺伝子をin vitroで発現させ,単離したヒトミトコンドリアと混合したところ,キメラ蛋白は正しくミトコンドリア内に輪送され,leader peptideが切断された.さらにこの遺伝子をミトコンドリアATPase6遺伝子8993番目のTがGに変異しているLeigh脳症の患者から得た細胞に導入したところ,ATPase活性は発症を予防できると考えられる正常下限にまで上昇した.この結果はミトコンドリア遺伝子異常症の中で,蛋白をコードする遺伝子に異常がある疾患群における遺伝子治療の可能性を強く示唆した.
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