研究概要 |
サイトメガロウイルス(CMV)の胎内感染、特に妊娠中の初感染による経胎盤感染では胎児、新生児に巨細胞封入体症(CID)として知られる頭蓋内石灰化などの症状が出現し、予後は不良なことが多い。近年、本邦においても成人女性、特に若年齢層のCMVに対する抗体保有率の低下が報告され、先天性CMV感染症の出生前診断、早期診断法の開発と有効で安全な治療法の確立が課題とさていれる。札幌市において出生した新生児7,995名中31名(0.39%)において尿から組織培養にてCMVが分離されたが、この内の28例は出生時無症状で3例は巨細胞封入体症(CID)にて新生児期に死亡した。6例の母親の妊娠10週および20週の血清さらには臍帯血血清を採取した。血清からはPCR法でCMV immediate early(IE)領域DNAの増幅を試み、ELISA法にて血清抗CMVlgG,IgM抗体価を測定した。また血清中の可溶性interleukin-2レセプター(sIL-2R)、interferon(IFN)-γ活性、IL-4、TNF-αなどのサイトカインをELISA法で測定した。CMV分離は、MRC-5細胞を用い、細胞変性効果(CPE)を観察するとともに、前初期抗原に対するモノクローナル抗体を用い、抗原陽性細胞を確認した。CMV胎内惑染患児6例の母親の妊娠10週および20週の血清で抗CMVIgG抗体価の有意な上昇は3例で認められ、特異的IgM抗体の上昇は1例で認めた。CMV IE DNAは妊娠中の血清よりは検出されなかったが、1例で新生児の臍帯血血清より検出された。IFN-γ活性は6例全例の妊娠中の血清より検出された。妊娠10週および20週での血清sIL-2R活性の上昇は4例で認めた。CMVの胎内感染の出生前診断の適応と信頼性に関しては論議が多い。妊娠中のCMVの初感染および再活性化による胎内感染の成立に際してはsIL-2RおよびIFN-γなどの血清サイトカイン値の変動も認められ、これらの活性の測定が診断に応用される可能性が示唆された。
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