研究概要 |
本研究は,紫外線による皮膚障害および紫外線発癌において,形質転換増殖因子β(TGFβ)による細胞増殖停止機序の異常が関与しているかどうかを明らかにすることを目的とする。平成9年度は,紫外線照射による急性皮膚障害とTGFβとの関連を検討するために,中波長紫外線(UVB)1回照射後に起こる細胞増殖停止における形質転換増殖因子β(TGFβ)の関与について免疫組織学的に検討した。その結果,UVBl回照射により,一過性に表皮細胞におけるTGFβおよびTGFI型レセプターの発現が増強し,Smad2/3の核内への移行,核におけるp21蛋白の発現等がおこり,その後サイクリンEの発現を伴って,Gl期の表皮細胞がS期に流入した。以上の成績から,TGFβによるGl期停止機序が存在することが示唆された。 次いで,平成10年度には紫外線反復照射による慢性皮膚障害とTGFβとの関連を検討した。照射前の表皮ではTGF-βの発現はほとんど認められなかったが,反復照射開始1から6週後には表皮の全層において強い発現が認められ,照射中止1から6週後では一部の表皮細胞にTGF-β1発現の陽性所見を示し,照射中止6週後においても表皮に巣状のTGF-β1陽性細胞が認められた。同様に反復照射中止3および6週後では,抗TGF-βI型レセプター抗体が陰性を示す表皮細胞が巣状に観察された。p21蛋白の発現は,照射前から照射中止6週後までの表皮のいずれにおいてもほとんど観察されなかった。以上の成績から,紫外線の反復照射により,TGFβによる細胞周期調節に異常が生じることが示唆された。
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