研究概要 |
皮膚での細菌感染は,その菌数が10^7cfu/cm^2以上の場合には膿性病変を作るが,それ以下はコロナイゼーションとされる。さまざまな皮膚病変では黄色ブドウ球菌(黄ブ菌)感染が起こりやすく,膿痂疹のみならずコロナイゼーションも生じやすい。黄ブ菌のT細胞刺激因子には,菌体成分と外毒素がある.何よりも強力なT細胞刺激因子は外毒素としてのスーパー抗原であり,TSST-1,SEA,SEB,SEC1〜3,SED,SEEの8種の外毒素を産生する。こうした強力なT細胞刺激性因子を産生する黄ブ菌が皮膚表面にコロナイゼーションすることは,T細胞が媒介するADの病状を実質的に増悪させるであろうことを容易に想像させる.表皮中のランゲルハンス細胞は一般の抗原同様,スーパー抗原に対しても抗原提示細胞となりうる。さらに重要なのはケラチノサイトであり,T細胞の産生するインターフェロン-γによりMHCクラスII分子を表出した場合,スーパー抗原に限って有効な抗原提示細胞となる。またスーパー抗原はケラチノサイトのTNFα産生を促し,接着分子であるCD54の発現を促進させる。 実際に,皮膚にコロナイゼーションした黄ブ菌がスーパー抗原を放出し,クラスII陽性ケラチノサイトを抗原提示細胞としてT細胞を刺激するであるかを検討したのが本研究である.黄ブ菌はスーパー抗原以外にもα-毒素などの細胞傷害性毒素を放出し,ケラチノサイトのスーパー抗原提示能を損なわせる。α-毒素に対する各細胞の感受性は,ケラチノサイト>単球>B細胞>T細胞の順であり,ケラチノサイトは極めてα-毒素による障害を受けやすい細胞である。つまり黄ブ菌はT細胞刺激という点において相反する2つの毒素,スーパー抗原とα-毒素を放出する。つまり黄ブ菌の産生するスーパー抗原に対してT細胞が反応するためには,ケラチノサイトが細胞傷害性毒素に曝されずにスーパー抗原と接触する必要がある。α-毒素の失活度はスーパー抗原に比べ著しく高い。よってα-毒素は放出されると表皮内で比較的早く失活してしまい,ケラチノサイトはスーパー抗原のみに曝されうる。皮膚でのコロナイゼーションは,T細胞刺激という観点からは,こうした至適条件をつくっているのかもしれない。
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