研究概要 |
温熱療法は深達度の大きい癌には効果不十分の場合が多い.加えた熱を血流が運び去り,腫瘍に熱が蓄積しないことが原因のひとつと考えられている.そこで,ACE阻害剤temocapril hydrochloride で 腫瘍組織血流量(TtBF)を下げ,腫瘍からの熱クリアランスを抑制することにより,温熱療法の効果を増強する可能性を検討した.TtBFを下げてマイクロウェーブ(MW)を発生させると,径約3cm以上の腫瘍ではTtBF低下の影響は顕著ではなく、有意の増殖抑制につながらなかった.この原因究明のため,TtBFと熱クリアランスとの関係をin vivoとin vitroで解析した.最初にMWの加温で,TtBFが停止しないかを検討した.加温前,腫瘍組織の温度は33.4±0.5℃(n=18),血流量は24.4±16.8ml/min/100g(以下ml)であった.43℃に上げてもTtBFは28.9±15.5mlと有意の変化はなく,その後も低下することはなかった.次に,temocaprilによるTtBFの低下が,腫瘍内熱クリアランスを下げるかどうかを検討した.TtBFを下げると熱クリアランスもわずかに下がったが,治療に意義のある変化ではなかった.さらにin vitroの潅流模型を製作し,flowと熱クリアランスの関係を解析した.腎血流量(約150ml)に相当するflowの場合,そのflowを下げると熱クリアランスは著明に低下した.一方,大きな腫瘍の血流量(約20ml以下)に相当するflowではflowを下げても熱クリアランスへの影響はわずかであった.以上の結果より,温熱療法が大きな癌に対して効果が不十分であるのは,熱の到達距離に限界があることが主な理由であり,TtBFが熱を運び去ることによるという可能性は小さい.現在のMW温熱療法で,TtBF低下が有効となる可能性があるのは,小さな腫瘍で,血流が豊富な癌に限られるという結論に達した.なお,本研究の特筆すべき成果はAIIレセプタータイプI競合薬tubulin重合阻害剤combretastatin A-4化合物に,より強力なTtBF遮断作用があることを見出したことである.
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