研究概要 |
ラットにおいては胎生後期は胎仔の中枢モノアミン系ニューロンの形成に重要な時期であり,我々はこの時期に受けたストレスによる神経系の機能異常状態が感情障害の生化学的脆弱性モデルと成り得るのではないかと考え,種々の検討を行った。行動科学的検討として,自発行動量の測定を本研究費により購入したケージ設置型活動量測定装置(LOCOMO)を用いて行った。生後に特別のストレスを加えない状態での自発行動とは,雄性ラットにおいて明期の行動量が胎生期ストレス群で増加し,LD比(明期行動量と暗期行動量の比)はストレス群で有意な高値を示した。これは,睡眠覚醒リズムへの影響を反映した結果と考えられた。成熟後に予測不可能なマイルドなストレス(chronic unpredictable variable stress,CVS)を14日間負荷すると、自発行動量は、CVS負荷により、雄性ラットにおいて胎生期ストレス群の暗期行動量は対照群と比較して減少傾向、あるいは有意な減少が長時間(CVS負荷後14週後)にわたって認められた。また、予備的実験ではあるが、抗うつ薬イミプラミンの前処置あるいは後処置がCVS負荷による暗期行動量の減少を阻止した。オープンフィールドテストでは,CVSを加えない群との比較では,胎生期ストレス群がより「不安」の評価が高かった。 これまでに、胎生期ストレスラットでは中枢モノアミン受容体のup regulation,抗うつ薬の反復投与に対するβ受容体の過感受性,HPA系の機能亢進などの所見がみられた。今回の結果とあわせて考えると,本胎生期ストレスラットは、Willnerが提唱した動物モデルとしての妥当性の概念を満たし、感情障害の生化学的脆弱性モデルラットとなりうるといえる。さらに,胎生期ストレスラットに生後,CVSなどの比較的軽微なストレス処置を加えることにより感情障害病態モデルを作成することが可能になり,感情病発症のプロセスの解明に貢献できると考えられる。
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