研究概要 |
本研究では,加齢性記憶障害(age-associated memory impairment ; AAMI)の生物学的特性を明らかにするために,痴呆あるいは老化のマーカーとなりうる項目として,低濃度トロピカミド点眼テスト(Tr.ED T),血清α1-アンチキモトリプシン(α1-ACT)濃度およびアポリポ蛋白Eの対立遺伝子型におけるepsilon4遺伝子(Apo E4)の出現率を選択し,AAMI老人,早発型アルツハイマー病(AD),アルツハイマー型老年痴呆(SDAT),脳血管性痴呆(VD)患者および健常老人において,これらの検査ないし測定を行った. 対象と方法:対象は,1993年4月から2001年3月までの間に北里大学東病院精神神経科,同脳検診外来を受診した者のうち,45歳以上85歳未満で本人あるいは家族に本研究の趣旨を説明し同意を得た者である.血清α1-ACT濃度は,ELISA法によって測定された.Apo E遺伝子型は,片岡らの方法に基づいて等電点電気泳動を行い,マルチプルバンディングパターンを用いて判定した. 結果と結論:1)Tr.ED.Testでは,AAMI群(8.6±6.2%)はC群(7.8±5.5)とほぼ同等の数値であり,AD群(23.3±19.1)とSDAT群(22.0±14.5)に対して有意差傾向(p<0.1)が認められたものの明らかに有意な差ではなかった.2)AAMI群のα1-ACT値は278.1±36.3μg/mlであり,C群(259.6±32.7)とAD群(303.7±87.8)の間に位置する数値であったが他のいずれの群とも有意な差はみられなかった.3)AAMI群におけるApoE4の出現率は20.8±29.2%であり,C群(12.5±27.5)とAD群(31.3±40.3)の間に位置する数値であったが,有意の差は無かった.以上から,AAMIは独立した一臨床単位ではなく,正常老人やADの前駆期などを含む混合群であるとみなすのが妥当であると結論した.
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