研究概要 |
糖尿病では高血糖に伴い,酸化ストレスが増大し,酸化ストレスによるDNA損傷産物,8-oxo,2′-deoxyguanosine(8-oxodG)が増加する.本研究では,糖尿病における酸化ストレスによるDNA損傷と慢性合併症の関連性について検討する目的で,糖尿病患者の末梢血単核球8-oxodG量と24時間尿中排泄量を測定した. 糖尿病患者の末梢血単核球8-oxodG量と24時間尿中排泄量は有意に高値であった.24時間尿中排泄量には性差を認め,男性は女性に比べて高値であった.また喫煙者は非喫煙者に比べ高値であった.末梢血単核球8-oxodG量と24時間尿中排泄量は高い相関係数を示し,共にヘモグロビンAlc値と相関した.腎症の重症度別に検討すると,微量アルブミン尿の時期から尿中8-oxodG排泄量は有意に高値であり,末梢血単核球8-oxodG量と尿中排泄量が増加した.網膜症の重症度別に検討した成績でも,糖尿病性網膜症の進行に従い,末梢血単核球8-oxodG量と尿中排泄量が増加した.末梢血単核球8-oxodG量と24時間尿中排泄量は糖尿病患者の酸化ストレスによるDNA損傷のよいマーカーになるものと示唆された. 8-oxodGは,複製時のミスマッチを増加させ,後天的なミトコンドリアDNA変異を蓄積させ,細胞のアポトーシス感受性を亢進させる.本研究により糖尿病では,酸化ストレスによる遺伝子損傷の蓄積が,アポトーシス感受性を亢進させ,慢性合併症臓器の脆弱性の背景因子である機序が示唆された.また慢性合併症の発症・進展予防に,酸化ストレスの増加を抑え,ミトコンドリア機能低下を防ぐ治療法が有効である可能性が示唆された.
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