研究概要 |
インスリン分泌細胞の増殖と機能の調節に関与する細胞内情報伝達機序としてのJAK-STAT経路の意義を解明することを目的とし,培養ラットインスリノーマ細胞株INS-1を用いて,1.成長ホルモン(GH)・プロラクチン(PRL)によるSTATの活性化,2.インターフェロンγ(IFN-γ)の作用とJAK-STAT経路の関与を検討した. 1. (1)INS-1の増殖およびインスリン合成を刺激するGH・PRLはJAK2活性化に続きSTAT5のチロシンリン酸化およびそのDNA結合能を促進することが確認された. (2)GHは他の細胞系ではMAPキナーゼを活性化するがINS-1ではそれが見られない.この事実をもとに,GHがEGF受容体のリン酸化を介してMAPキナーゼを活性化するが,INS-1では同受容体の発現が乏しいためにそれが生じないことが新知見として得られた. 2. (1)IFN-γは細胞内ブドウ糖代謝を阻害することによってそのインスリン分泌刺激を抑制し,また腫瘍壊死因子(TNF-α)と同時に作用させるとINS-1において著明な細胞毒性を示した.後者がNO合成酵素(iNOS)mRNAの誘導と平行して見られることから,両サイトカインが相乗的にNO産生を介して細胞障害に働くことが示唆された.(2)このiNOS誘導のメカニズムとして両サイトカインによるDNA結合蛋白の活性化を検討したところ,IFN-γはSTAT1さらにはIRF-1の活性化を介してiNOSの誘導に働くこと,またTNF-αによるNF-κBの活性化をIFN-γがさらに増強することによってiNOSの誘導に作用しうることが新知見として得られた. 以上のことからインスリン分泌細胞においてはJAK2/STAT5の活性化がその増殖および機能の促進に関与すること,一方STAT1の活性化はむしろ細胞障害性に作用するサイトカインの情報伝達機序として重要であることが示唆された.
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