研究概要 |
高糖環境に馴化したA431細胞株(HC)は通常培養細胞(NC)に比較して極めて増殖速度を低下させた。HCの細胞内総ユビキチンはマルチ鎖(MU)120ng/mg蛋白、遊離型(FU)250ng/mgとNC(MU:100ng/mg,FU:300ng/mg)と差がなく、proteasome阻害剤MG132(0.8μM)添加やEGF(100ng)添加でもMUの高度増加は認めなかった。そこでEGF受容体(R)そのものの変動をみるため独自に作製したEGFRとユビキチン化(Ub)EGFR測定係を用い、各細胞の変動をみた。EGFRは貯臓NC細胞出来抽出液100μg中のEGFRを100Uとして定量した。またUbEGFRは単位EGFRあたり抗Ub抗体反応EGFRの吸光度で得た。通常37℃培養でHC由来EGFRはNC(85U)に比らべ52Uに減少していたが、4℃培養ではNC:115U,HC:124Uと両細胞に差はなかった。一方UbEGFRは4℃2hEGF処理でも変動しないが、37℃ではlh処理でNC,HCとも未処理に比較し約1.2倍に増加していた。興味あることに通常37℃培養ですでにHCはNCに比較し1.8倍EGFRもUb化が亢進していた。37℃培養細胞抽出液のWGA(レクチン)沈降物のウェスタンブロットでもHC内のEGFRの減少と強いUb化が認められた。このようなHC由来EGFRの特徴である4℃、37℃培養条件によるEGFR、UbEGFRの変動はHCの37℃→4℃→37℃の培養温度のシフト実験でも確認出来た。また、EGF処理後の抗リン酸化チロシン抗体による反応性はNC由来EGFRに比較しHC由来EGFRは弱かった。さらにHC由来抽出液のWGA沈降物より得たEGFRは抗AGE抗体に反応した。これらの結果から高糖環境下ではEGFRは糖化するが、EGF刺激によるinternalizationの大切なsignalであるUb化はNCと同程度であるので障害は軽度と考えられる。しかし、高糖条件下におけるHC,EGFRの早いturnover(高いUbEGFRの存在をinternalize亢進によるEGFRのUb化とすると)EGFRの供給限度を越え、そのうえリン酸化障害はリン酸化を支配するsite directedなNH_2基のUb化障害を否定できず、結果としてEGFRの量的、質的減少(異常なdown regulation)を惹起するものとみられ、高糖条件下でのsignal伝達の障害が推測できる。今後はEGFR messageの変動を高糖条件下で検討する要がある。
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