研究概要 |
免疫抑制療法を受けた多数の再生不良性貧血症例について,末梢血リンパ球におけるheat shock protein(hsp72)の発現をフローサイトメトリーで検討した.その結果,シクロスポリン療法に反応して改善した再生不良性貧血患者のリンパ球では,熱ショック後のhsp72の発現が亢進していることが明らかになった.この現象は,再生不良性貧血以外の血液疾患患者ではみられなかった.hsp72の発現はTリンパ球においてとくに顕著であった.したがって,治療前に末梢血リンパ球のhsp72の誘導性を調べることは,シクロスポリンのような免疫抑制剤に対する反応性を予測する上で有用と考えられた.一方,全国の症例について調査を行ったところ,再生不良性貧血全体の約40%の症例で,末梢血単核細胞中のhsp72陽性細胞の割合が高値(>30%)を示した.しかし,抗胸腺細胞グロブリン+シクロスポリン療法の効果との関係をみたところ,シクロスポリン療法でみられたような明らかな相関は認められなかった.一部の再生不良性貧血患者では,リンパ球だけでなく,赤血球の表面にもhsp72が検出された.そこで,赤血球表面のhsp72について詳細に検討したところ,hsp72は,再生不良性貧血患者だけでなく,約30%の健常人で20〜90%の赤血球表面に発現していた.血液型との関係を調べたところ,hsp72はA型とAB型の赤血球にのみ検出された.hsp72の発現は熱ストレスとは無関係であった.hsp72陽性の健常人の骨髄をin vitroで培養し,赤血球前駆細胞を分化させたところ,得られた赤芽球の表面にはhsp72は検出されなかった.このためhsp72は,A型およびAB型の赤芽球が脱核したのちに赤血球表面に発現すると思われた.赤血球表面にはhsp72だけでなく,hsp90の発現も認められた.A型物質との関係を調べるため,O型赤血球をNアセチルガラクトサミン(GalNAc)トランスフェラーゼとUDP-GalNAcで処理することによりA血球に変換したところ,抗hsp72抗体との反応はみられなかった.したがって,赤血球表面のhsp72の発現は,遺伝的に決定されたものであり,A型物質の発現と密接な関係にあることが示唆された.
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