研究概要 |
一酸化窒素(NO,nitric oxide)と新生児低酸素性虚血性脳症発生との関わりを明らかにするために、NOの脳内動態を検討した。 ラット新生仔に対し、片側頚動脈結紮と低酸素負荷により新生児低酸素性虚血性脳障害モデルを作成した。大脳皮質中のNO代謝産物をNOアナライザーにて測定した。さらに、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS,neuronal nitric oxide synthase)選択的阻害剤、または誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS,inducible nitric oxide synthase)選択的阻害剤を低酸素負荷1時間前に1回腹腔内注射し、脳内NO代謝産物を測定した。.脳内NO代謝産物は頚動脈結紮側で、脳障害発生側の片側大脳皮質のみで増加していた。この増加には二峰性のピークがあり、1h後の低酸素負荷中と6h後のreoxygenationの時点であった。選択的nNOS阻害剤は両方のピークを完全に抑制し、選択的iNOS阻害剤1回投与では6h後のreoxygenation中のピークを不完全に抑制した。 さらに、低酸素負荷1時間より8時間毎に計9回誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)阻害剤を投与し、脳内NO代謝産物を測定した。また脳障害の程度を72時間後に組織学的に検討し、大脳皮質、線状体についてそれぞれ全面積に対する梗塞面積の割合を算出した。iNOS阻害剤を頻回に投与すると、低酸素負荷終了後の長時間(数日)にわたる脳内NO代謝産物の上昇を持続的に抑制した。選択的iNOS阻害剤頻回投与群ではコントロール群に比し、大脳皮質、線状体とも梗塞面積を有意に軽減した。 nNOS、iNOSとも神経障害性と考えられるNOを産生するが、新生児低酸素性虚血性脳症の脳障害発生にはiNOSにより長時間産生され続けるNOが主要な役割を演じていると考えられた。
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