研究概要 |
膵胆管合流異常症における発癌機構の解明のために,まず,臨床例の胆道上皮の細胞機能について検討した。その結果,本症の小児例の胆嚢粘膜ではvillous-typeの過形成性変化が特徴的であり,この過形成性変化は膵管胆管型合流異常症で81.8%,胆管膵管型合流異常症で27.2%であり,膵管胆管型合流異常症では胆管膵管型に比較して有意に高頻度で認められた。また,胆嚢粘膜のMIB-1陽性率から増殖活性をみると,合流異常症例では有意に高値を示し,合流異常症例の中で膵管胆管型では胆管膵管型に比較して有意に高値を示した。一方,癌抑制遺伝子p53蛋白は全例でその発現が認められなかった。従って,合流異常症,特に膵管胆管型合流異常症の胆嚢粘膜では小児期早期より細胞増殖活性を亢進させる因子が作用しているが,臨床例についての発癌に至る遺伝子変化については今後も検討を要すると考えられた。 次に,本症における胆汁うっ滞と逆流した膵液が発癌に及ぼす影響を検討するために,3-methylcholanthreneを用いたハムスターの誘発胆嚢癌を実験モデルとして実験的研究を行った。誘発胆嚢癌の発生率は,胆汁酸としてケノデオキシコール酸を添加することで増加し,さらにケノデオキシコール酸と膵酵素であるトリプシンを添加することで増加した。一方,癌抑制遺伝子p53蛋白の発現は非発癌例では1例も認められず,発癌例ではその約40%に発現が認められた。すなわち,実験的研究では、本症では胆汁酸と膵酵素が発癌を促進させており,その発癌過程には遺伝子の変化が伴っている可能性が示唆された。
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