研究概要 |
1. 研究の背景と目的: 胃癌症例において,14番染色体q32.3領域の詳細な解析と,同領域にみられるloss of heterozygosity(LOH)と臨床病理学的因子および予後との関連を検討することにより,胃癌の転移に関する分子生物学的解析や,悪性度の判定に有用な情報が得られるものと推測し本研究を行った. 2. 材料と方法: 当科および関連病院で切除された胃癌症例58例の,癌部および非癌部正常粘膜から組織を採取した.癌部組織はすべて病理組織学的に腺癌であることを確認した.組織からのDNAの抽出はプロテイナーゼK/フェノール-クロロフォルム法にて行った.PCR用に溶液を作製し,5種類のプライマーを加え,反応液を作成した.PCRは基本的には35cycles行った.ヘテロ接合性の検出は,SSCP法で行った. 3. 結果: SSCPにてheterozigosityが認められ,LOHの有無を確認できたものは42.7%であった.D14S65で最高67%(21/31)のLOHが認められ,以下D14S68で61%(11/18),D14S62で52%(13/25),D14S267で41%(11/27),D14S250で26%(7/27)であった.臨床病理学的因子とこれらのマーカーにおけるLOHの関連性を検討すると,D14S267でリンパ管侵襲およびリンパ節転移とLOHの間に有意な相関が認められた. 4. 総括: 14番染位体の胃癌におけるLOHの報告はなく,われわれの検討では,とくにDl4S267において,有意にLOHとリンパ管侵襲及びリンパ節転移との間に相関が認められ,この領域に転移とくにリンパ行性転移に関連する癌抑制遺伝子の存在が示唆された.このことは,癌のリンパ行性転移の分子生物学的解明にひとつの足がかりとなるのみでなく,胃癌のリンパ節転移や悪性度の診断に極めて有意義な情報となる可能性が示唆された.
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