研究概要 |
いずれもp53変異株であり、通常の抗癌剤ではアポトーシスを起こしにくい5種類の膵癌細胞株(Capan-1,AsPC-1,BxPC-3,Panc-1,MIAPaCa-2)および7種類の大腸癌細胞株(SW48,SW480,SW620,CaR-1,colo320-DM,HT29,DLD-1)に対するbafilomycin A1のID_<50>(72時間培養,MTT assay法)は5nM-40nMときわめて高い感受性を示した。そして、bafilomycin A1や25-C prodigiosinの液胞型プロトンポンプ阻害剤は、Capan-1膵癌細胞のヌードマウス皮下移植腫瘍に対して有意に腫瘍の増殖を抑制し、病理組織学的には癌細胞の縮小や核の濃縮などアポトーシスに特徴的な所見が観察された。次に、最もアポトーシス抵抗性の強いHT-29を用いて、アポトーシスに至る経時的推移について検討したところ、細胞膜表面の微絨毛の減少およびブレブ形成、細胞膜表面へのPS基の表出はbafilomycin A1処理24時間目から、細胞の縮小および核クロマチンの凝集や分断化は処理48時間目から観察された。アポトーシス関連蛋白の経時的推移では、bafilomycin A1処理でp53蛋白の発現は増強せず、またp21^<Waf1>蛋白の発現も終始誘導されなかった。Bcl-2、Bcl-XL蛋白の発現程度には変化がみられず、Bax蛋白は発現しなかった。カスパーゼ蛋白分解酵素ではカスパーゼ3、カスパーゼ9は処理後48時間目から活性体が観察されたが、カスパーゼ6、カスパーゼ7の活性体は認められなかった。加えて、この一連のアポトーシスの誘導はイミダゾール投与によって抑制されなかった。これらの成績より、bafilomycin A1によって誘導されるアポトーシスは、癌細胞のp53蛋白のstatusや細胞周期とは無関係に誘導されるものであり、しかもカスパーゼ9およびカスパーゼ3を介したミトコンドリア依存性経路であることが示唆された。以上より、液胞型プロトンポンプを標的にしたbafilomycin A1を用いての消化器癌治療の有用性が示唆された。
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