研究概要 |
平成9-10年度は胃癌継代培養株MKN-45から高度腹膜転移株MKN-45-Pを樹立することに成功した。この株において特異的に発現している遺伝子を35種類の特異primersをもちいRT-PCRでスクリーニングした。その結果この細胞株では接着因子ではintegrin a2 a3.b1、マトリックス分解酵素ではMMP-7,MT1-MMP,ウロキナーゼ受容体、MMP-11,運動因子ではc-met,AMF receptorが過剰発現していることを確認した。このうちintegrin a2 a3.b1とMMP-7は転移能が上がるにしたがい発現が亢進することがわかった。 まず、マトリゲルをコートしたシャーレ上で抗integrin a2 a3抗体で処理したMKN-45-Pを培養すると、マトリゲルとの接着数が対照に比べて有意に低下した。さらに大網から分離した中皮上で同様な実験をすると、同じように抗体処理により癌細胞の接着は抑制された。これを相差電子顕微鏡で観察すると癌細胞は中皮の開裂部でマトリゲルが露出している部分に選択的に接着していた。integrin a2, a3はマトリゲルの構成成分であるラミニン、コラーゲンのレセプターであり、integrin b1と2重鎖(VLA-2.-3)を形成することで細胞外マトリックスと細胞の強固な結合を誘導する。 したがって、この高度転移株では細胞表面に過剰に発現したVLA-2,-3を介して腹膜に強く結合するものと考えられる。 またヌードマウス腹腔内に抗integrin a2,a3抗体で処理したMKN-45-Pを107個注入すると明らかに生存期間が延長した。このように腹腔内に遊離した癌細胞が腹膜に最初に接着する段階でVLA-2,-3が重要な役割をもっていることが明らかとなった。この成績の一部は著書Peritoneal Dissemination(Maeda Shoten.ED.Y Yonemura.1998)に記載した。 腹膜に接着した癌細胞は腹膜下10-20mmに分布する毛細血管にまで浸潤しなければ増殖することができない。 この腹膜と毛細血管の間の組織はblood-peritoneal barrierとよばれており、浸潤能の低い癌細胞では血管周囲まで到達できないのでそのまま死滅してしまう。癌の浸潤能はマトリックス分解能と運動能の両機能に依存している。MKN
… もっと見る
-45-Pではマトリックス分解酵素ではurokinase receptor,MMP-11,urokinase,MT1-MMP,MMP-7が、運動因子ではc-met.AMFRが過剰発現していた。このうちurokinase receptor,MMP-11,urokinase,MT1-MMP,c-met,AMFRは親株であるMKN-45でも過剰発現していた。一方、MMP-7は転移能の上昇とともに発現が亢進していた。そこで、MMP-7 mRNAの第4exonの最初の翻訳部位に相補的な16merのphosphorothioate型antisense oligonucleotides(MMP-7-specific antisense(AS-1)oligonucleotides(5´-GTATATGATACGATC-3´)and random comtrol(CL-1)oligonucleotides(5´-GTATTAGTATCGAAC-3´)を作成し、MKN-45-Pと24時間培養後、マトリゲル内への浸潤能を検討した。antisense oligo.(10mM)処理により癌細胞の浸潤能は有意に低下した。その抑制率は対照の95%であった。 またWestern blotでMMP-7蛋白の発現は45%低下し、RT-PCRでもMMP-7mRNAは著名に抑制された。 このantisense oligo.(10mM)はMKN-45-Pの増殖に全く影響を及ぼさなかった。 そこでヌードマウス腹腔内にMMP-7 antisense oligo.(10mM)(MMP-7-specific antisense(AS-1)oligonucleotides(5´-GTATATGATACGATC-3´)and random comtrol(CL-1)oligonucleotides(5´-GTATTAGTATCGAAC-3′)で24時間処理したMKN-45-Pを投与し生存率を比較した。しかしながら、MMP-7 antisense oligo.は生存率を改善させなかった。 これはこの高度転移株がMMP-7以外の細胞外マトリックス分解酵素であるurokinase.MMP-11.MTl-MMPを同時に産生しているからであると考えられた。 また、AMFRに対するphosphorothioate型 antisense oligonucleotides(5'-CGCTGTCTCTCATCAGCA-3´)およびsense oligo.(5'-ACGACTACTCTCTGTCGC-3')を作成し、同様な方法でMKN-45-Pを処理しマトリケル上で培養した。 その結果、AMFR antisense oligo.(10mM)は有意に癌細胞のマトリゲル内の浸潤能を抑制した。 隠す
|