研究概要 |
ヒト膵癌組織62例を用いてp53とp21WAF1の免疫染色を行い,予後との相関について検討した.またヒト膵癌凍結標本20例および6種のヒト膵癌細胞株を用いてWestern BlotとRT-PCRで,p53とWAF1の発現相関について検討した.膵癌組織の免疫染色では,p53陰性かつp21WAF1陽性例,p53陽性でp21WAF1陰性例,いずれも核内にp53の蓄積,p21WAFの発現を認めた.ヒト膵癌組織のp53とp21WAF1の発現頻度は,p53陽性は62例中23例(37%),p21WAF1陽性は62例中30例(48%)で,有意な相関がみられた.RT-PCRでも野生型p53症例ではWAF1のシグナルがみられたが,変異型p53症例では1例を除いてWAF1のシグナルはみられず,mRNAのレベルで野生型p53とWAF1との間に相関がみられた.予後との相関をみると術後平均生存期間は,p53陰性群では16ヵ月であったのに対し,陽性群は10.5ヵ月,一方,p21WAF1陰性群では12ヵ月であったのに対し,陽性群では15ヵ月であったが,いずれも有意差はなかった. ヒト膵癌細胞株のWestern BlotとRT-PCRでは,WAF1の発現は野生型の3株のみに観察され,変異型では観察されなかった.従って,変異型p53細胞においてはWAFlが発現しないために,G1からS期のチェックポイントでアポトーシスが生じず,これが腫瘍増殖の一因となっている可能性が示唆された.また有意差はみられなかったものの,野性型p53群とp21WAF1陽性群で術後生存期間が長い傾向があり,臨床的にも腫瘍の増殖及び予後に関与している可能性が示唆された.
|