研究概要 |
本研究は肺癌における転移関連遺伝子やその遺伝子産物の発現を,肺癌の細胞株および臨床例の組織において検討し,また肺癌転移に関連した新しい遺伝子のクローニングを試みることにより,肺癌転移の分子機構の一部を明らかにし,肺癌の転移診断や遺伝子治療の一助となることを目的とし,平成9年度より新規に開始された。 多くの悪性腫瘍組織においてMMP-2とMMP-9の過剰発現は腫瘍の浸潤と転移に重要な役割を果たすとされている。本研究では,昨年度基底膜破壊に大きくかかわり、癌転移において重要な役割を果たすとされるマトリックスプロティナーゼ(MMPs)およびその阻害酵素(TIMPs)発現を,肺癌細胞株および肺癌組織において検索し、肺癌の浸潤転移では,MMP-2,TIMP-2が重要な役割をはたすことを明らかにした。今年度は非小細胞肺癌患者における血清MMP-9と腫瘍組織におけるMMP-9の発現と,その臨床像との関連につき検討した。その結果,血清MMP-9濃度は非小細胞肺癌の45.2%で上昇しており,血清MMP-9測定は非小細胞肺癌,特に扁平上皮癌と大細胞癌において腫瘍の負荷を評価する重要な指標であることを明らかにした。 以上から新しい転移関連遺伝子の発見には至らなかったものの,肺癌の転移浸潤においては,今後さらにMMPsおよびTIMPsの調節機構解明,MMP-9の血中発現の意義につき,研究を進めることが重要と考えられた。
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