研究概要 |
現在使用されている心筋保護液による心筋細胞保護とともに,冠動脈血管内皮細胞の保護をおこなうことは、心臓外科手術成績および遠隔期の成績を向上させる可能性がある。 手術中の心筋障害が軽度であったとしても、血管内皮細胞が保護されずに傷害を受けると、血管内皮細胞からのNOの産生が低下し,相対的にendothelial contractile factor(EDCF)の働きが強められ,冠動脈はspasmを生じやすくなり,platelet,leukocyteが集積することにより冠動脈,バイパスグラフトが閉塞し,その結果として心筋障害を生じることになる。特に,このことは現在,臨床で一般的に行われている大動脈ー冠動脈バイパス手術において,手術成績および遠隔期の成績を左右することになる。 そこで1)心筋保護液にnitric oxide(NO)のdonor(L-arginine)を添加した時、血管内皮細胞からのnitric oxide(NO)の産生が増加することを確認、2)心筋保護液にnitric oxide(NO)のdonorを添加した場合、従来、心筋保護液が持っていた保護効果に対する影響の検討、3)虚血再潅流後、産生の増加したNOにより保護された血管内皮細胞により、冠動脈は拡張機能を保持しているかを確認、4)NOはvascular toneを維持し,また血管内皮細胞へのplatelet,leukocyteの集積を抑制し、血管内皮細胞を保護する働きがある一方、心筋障害を生じるfree radicalのsourceとなる可能性もあり,その至適濃度に関する検討を行った。 結果;心筋保護液にL-arginineを添加した場合、それまで心筋保護液が持っていた保護効果は維持され、また血管内皮細胞からはNOの産生が増加し、虚血再潅流後、産主の増加したNOにより保護された血管内皮細胞により、冠動脈は拡張機能を保持していた。しかしながら、高濃度のL-arginineを心筋保護液に添加すると、虚血再潅流後の心機能は低下した。これはNOの持つvascular toneの維持,血管内皮細胞へのplatelet,leukocyte集積の抑制、血管内皮細胞を保護する働きなど利点の反面、心筋障害を生じるfree radicalのsourceとなる可能性があるためと考えられ、心筋保護液に添加するL-arginineには至適濃度があると考えられた。
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