研究概要 |
カルシウム依存性接着因子であるE-cadherinは,シュワン細胞の細胞間接着に関与する一方,正常の脊髄では膠様質RexedII層に局在し無髄神経の神経束形成に関与する.坐骨神経を損傷すると一過性にRexedII層のE-cadherinは消失し,末梢側の神経再生と同調して再発現することよりE-cadherinが痛みの一次感覚神経終末の再構築に関与する可能性を示唆する.NGFが膠様質の存在する神経伝達物質substance-Pの発現制御に関わることは知られているものの,一次感覚神経終末の再構築機構は不明であり,E-cadherinとその細胞内結合蛋白であるa-カテニン(E,Nのそれぞれのsubunit),β-カテニンに注目し,脊髄・脊髄神経におけるカドヘリン-カテニン複合体の機能を検討した. 1. イムノブロット解析では,三叉神経,坐骨神経,後根,後根神経節に,E-cadherin,αEカテニンともに発現していた.αNカテニンは大脳,小脳,脳幹,脊髄と後根神経節に発現していた.β-カテニンは検索した全ての組織に発現していた. 2. 免疫組織化学的には,E-cadherinは脊髄のRexed第II層,後根神経節細胞と衛星細胞に,坐骨神経ではシュワン細胞と無髄軸索に発現していた.αEカテニンは,脊髄では中心管の上衣細胞,一部の神経細胞に,後根神経節では神経節細胞と衛星細胞,坐骨神経ではシュワン細胞と一部軸索に発現していた.αNカテニンは後根神経節では神経節細胞と衛星細胞,脊髄では脊髄灰白質全体,とりわけRexed第II層および中心管の上衣細胞に強く発現していた. 3. 抗E-cadherin抗体を用いた免疫沈降では,三叉神経,後根神経節,坐骨神経においてE-cadherinは,αEカテニンと複合体を形成していたが,αNカテニンとの結合は脊髄を含めていずれの組織においても証明されなかった. 4. 脊髄内E型カドヘリン/神経伝達物質の消失モデルを作製した.坐骨神経圧挫側のRexedII層のE型力ドヘリン,αNカテニン,サブスタンスPは第7病日に消失した.この消失蛋白は結紮群(電顕的に部分的に再生軸索の出現することを確認した)では,第63病日に再び同じRexedII層に出現した.一方,血管クリップで挟んだままの永久的圧挫群ではE型力ドヘリン,αNカテニン,サブスタンスPは消失したままであった.神経切断部位の中枢端に浸透圧ミニポンプから持続的にNGFを投与したところ,RexedII層のサブスタンスPの消失を阻止できた.一方E型力ドヘリン,αNカテニンの消失は阻止できなかった. 以上より,カドヘリン-カテニン複合体が部位により複数の組合せで複雑に細胞接着にかかわるなかで,αEカテニンは三叉神経,後根神経節,坐骨神経でE-カドヘリンと複合体を形成し,軸索と末梢性グリアの接着ならびに細胞内のシグナル伝達を制御するものと思われた.
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