研究概要 |
悪性脳腫瘍患者での免疫抑制病態を解明することを目的とし、次の4つの事柄について検討した。 1. 末梢血単球の細胞表面分子(CD80,CD86)の発現に及ぼすIFN-βの影響。検討の結果、IFN-βは単球の抗原提示能を変化させる可能性が示唆された。しかし、in vitroでのIFN-β刺激と患者への投与でのCD80,CD86分子の発現の違いがみられ、今後の検討が必要である。 2. 悪性glioma患者血清中における免疫抑制性IL-12 p40 homodimerの検討。その結果、悪性glioma患者血清中には比較的高levelのIL-12が免疫抑制性のp40 homodimerの形で存在し、しかも活性のあるp70heterodimerが存在しなかった。このことは腫瘍に対する免疫反応の始動を抑制し、悪性glioma患者の免疫抑制病態に関与していると考えられた。IFN-βは末梢血単球からのIL-12産生を増加させ、IFN-γと同様にpriming効果を示すと考えられた。 3. 悪性glioma細胞の産生するTSP-1による潜在型TGF-βの活性化の検討。悪性glioma細胞株では、TSP-1mRNA及び蛋白が認められ、glioma細胞株全てがTGF-βの活性化能を有していた。T98G細胞の培養上清中の活性型TGF-β1の生成は抗TSP-1抗体により50%以上抑制され、TSP-1はTGF-βの活性化に主要な役割を担っていると考えられた。 4. Gliomaの組織学的悪性度とTSP-1の発現との相関の検討。外科的に摘出したglioma組織でのTSP-1,TGF-β蛋白の発現を抗TSP-1抗体、及び抗TGF-β1,-β2,-β3抗体を用いて免疫組織学的に検討した。その結果、glioma組織におけるTSP-1及びTGF-β蛋白の発現の程度は、gliomaの組織学的悪性度が高いほど発現が増加しており、組織学的悪性度と相関していた。悪性gliomaではTSP-1とTGF-βが過剰発現しており、腫瘍組織でTGF-βがTSP-1により活性型に変換され、生物学的な悪性度も増すと考えられた。 以上の結果から、悪性gliomaではTSP-1,TGF-βの発現が高く、腫瘍局所では潜在型TGF-βの活性化により免疫抑制状態が惹起される可能性が示唆された。又、TSP-1、およびTGF-βの発現は組織学的悪性度と相関しており、腫瘍の進展に関与している事が示唆された。今後は、TSP-1が腫瘍細胞の浸潤に及ぼす役割についての検討が必要であると考えられる。
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