研究概要 |
全染色体のDNAコピー数の異常を一度に検出し、これを染色体上にマッピングできる比較遺伝子競合(CGH)法を用いてgliomaの染色体・遺伝子異常を解析した。対象は、手術により摘出したastrocytoma,As,7(1)、anaplastic astrocytoma,AA,3(1)、glioblastoma,GB,24(9)例の合計34例[()は再発例数]である。これらより凍結切片を作成し、まずHE染色で腫瘍部位を同定したのち、隣接切片よりDNAを抽出した。腫瘍ならびに正常DNAをそれぞれ緑色および赤色蛍光で標識し、ヒト正常分裂中期染色体に競合的にハイブリダイズさせ、染色体・遺伝子解析システム(PowerGene^<TM> Probe System,PSI,Nikon)を用いて解析した。結果:染色体・遺伝子異常は34例中32例(94%)に認められた。As例では1.1±0.9(mean±S.D.)本、AA例では1.7±1.2本の染色体に欠失が認められた。一方、GB例では、4.3±2.2本の染色体に異常が認められ、そのうち、欠失は3.5±1.8本、増幅は0.8±1.1本であった。異常はAs/AA例と比べGB例で有意(p<0.01)に多く認められた。特に、1p(41%)、10(29%)、19q(44%)、および22q(38%)の欠失が高頻度にみられた。また、GB例を初発例(15例)と再発最悪性化した例(9例)とに分け比較検討したところ、染色体異常数や欠失には差がみられなかったが、増幅は初発例に多く認められた(p<0.01)。結論:(1)グリオーマの染色体異常は欠失が主体をなすものと考えられ、(2)染色体欠失数と組織学的悪性度との間には負の相関がみられることが明らかとなった。また、(3)GBのうち再発悪性化例(definitely secondary glioblastoma)では主に欠失しかみられなかったが、初発例のなかには欠失、増幅の両者がみられるものが認められた。このことより、GBには少なくともDNA増幅のみられる例とそうでない例の2つのsub-typeが存在し、これらが、それぞれprimary(de novo)およびsecondary GBに相当する可能性が示唆された。これらの遺伝子学的情報と臨床情報との対比など、今後の検討が必要である。
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