研究概要 |
脳血管床のintrinsic innervation,特に前脳基底部(BF)コリン作動系の動的役割を調べた。ネズミ及び成猫を用い実験I,IIをおこない、以下の結果を得た。 実験【I】(1)ネズミのマイネルト核・無名質あるいは内側中隔核・ブロカの対角帯核にグルタメイトあるいはAchを微量注入すると、海馬あるいは大脳皮質のCBFの増加(27〜68%)とICPの上昇が観察された。ネコの視床下部背内側核(DMH)への注入でもICPの上昇とCBFの増加(39〜55%)が惹起された。(2)ネコのコリン作動性橋領域(CPA)にAchの微量注入をおこなうと、ICPの上昇が惹起される。DMH核の単一ニューロンの発射活動を連続記録しながら、CPA又は対側DMHにAchを微量注入するとICPの上昇に先行してDMHニューロンの発射活動が顕著に増加した。DMHニューロンの中に自発性頭蓋内圧・圧波(A波)の発現時に圧上昇相に先行して発射活動が増加し、下行相に先行して減少するニューロンがみられた。(3)自発性A波やグルタメイト惹起性A波発現時に、Nitric Oxide(NO)濃度の増加とCBVの増加が観察された。(4)DMHにAch微量注入するとICPの上昇が惹起されるが、ICPの上昇に先行してNOの増加とCBVの増加がみられた。この現象はNO合成のinhibitorであるL-NAMEのI.V.で顕著に抑制された。(5)BFは脳血管床の制御に関与しており、少なくとも一部はintracortical NOS neuronの介在によるNOが関与していることが判明した。 実験【II】(1)ネコに脳低温を負荷すると前頭葉及び頭頂葉のNO濃度の低下とともにCBVの減少とICPの下降がみられた。(2)脳温が32〜34℃の間ではCBF,CMRO2,CBVは減少するものの、血流と代謝のcouplingがみられる。しかし31〜29℃以下になるとCVRの増加は顕著になりcerebral vasoconstriction,misery perfusionを起こす。このrelative ischemiaをさけるにはvasopressorの投与が有効である。(3)compression ischemia modelを用いた復温時の脳血流・脳代謝のパラメーターの検索から,CPPが60mmHg以下になるとrelative ischemiaに陥りglutamateの放出増加と脳組織学的損傷(ミトコンドリアの著明なswellingと、intracytoplasmic vacuolesとendoplasmic reticulumの軽度のfragmentation)がみられた。復温時にはCPPを90mmHg以上に保つ必要があることが判明した。
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