研究概要 |
右半球損傷後に起こる半側空間無視は,左側の対象に気付かず,また左側を探そうとしないという症状を呈する.本研究では,液晶ディスプレイとタッチパネルを用いて,1)従来の検査方法に準じて反応過程を含む半側空間無視の定量的評価を行うこと,2)刺激を動的に変化させ,反応過程も記録しながら訓練を行うこと,を目指したシステムを開発した.完成した検査,課題は,(1)線分二等分,(2)左端cueing後の線分二等分,(3)左端cueing後の線分イメージ二等分,(4)線分を右端から左端までなぞる課題,(5)線分を右端から左端まで消去する課題,(6)印を付ける線分抹消,(7)触れると消える線分抹消,(8)選択的抹消試験の1つである星印抹消である.(1)と(2)の線分二等分については,線分長を変えた90回の二等分を15分程度で終了でき,二等分点の偏位量を正常データと比較し、正確かつ容易な半側空間無視診断が可能となった.訓練効果としては,(2)では,左端を確認させることによって成績向上が見られた.しかし,その場合でも半側空間無視は残存した.半側空間無視の機序の1つとして,右側の刺激に対する過剰な注意が上げられている.しかし,(3)で線分消去後にイメージを二等分しても無視が生じることから,視覚イメージに対する視空間処理段階での問題が無視改善を困難にしていると考えられた.(4)と(5)の線分を左端までなぞる,または消す課題は,重度の半側空間無視患者における左端の認知および左方探索の訓練に有効であった.また,(6)と(8)は,従来の検査用紙による方法を置きかえることを可能とし,(7)では,重度患者の左方探索訓練の第一段階としての有効性が示された.いずれの課題でも,結果をディスプレイ上に再現でき,検査結果のフィードバックと説明に有用であった.このほか,本システムの開発と平行して,国際的な半側空間無視検査の導入のため,BIT行動性無視検査日本版を作製、標準化し出版した.
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