研究概要 |
平成9年度は,プロポフォールの本邦導入から日が浅いため,臨床麻酔症例の蓄積に努め,いくつかの知見を得た。プロポフォール麻酔ではまれに白濁尿を生ずることがあり,その解明を行った。光学顕微鏡所見より,尿酸の析出が疑われ,プロポフォールと吸入麻酔症例で尿酸排泄に差異を認めた(Anesth Analg)。また,褐色細胞腫摘出術において,血中プロポフォール濃度が低下する可能性を見いだした(臨床麻酔)。プロポフォールは精度の高い持続注入ポンプを用い持続投与する必要があるが,これらのポンプの性能についての知見も得た(Canadian J Anlaesth)。プロポフォールは体重にもとづいて投与することが推奨されているが,その薬理学的な根拠は明確ではない。様々な体型の麻酔患者のプロポフォール血中濃度の測定から,プロポフォールの定常状態の血中濃度は肥満度の指標(Body Mass Index;BMI)と有意な相関関係にあることが解り,現在欧文雑誌投稿中である。 平成10年度は,咽頭・喉頭反射に関与する呼吸関連神経(横隔神経,舌下神経,反回神経,上喉頭神経)活動を,咽頭・喉頭反射の抑制という観点から,麻酔導入量のプロポフォールとバルビタールで比較検討した。健康成人を対象とし,プロポフォール(P群)と,サイアミラール(T群)で鎮静した。被験者には,胸郭・腹部運動,心音図,経皮的酸素飽和度,呼気終末炭酸ガス濃度,オトガイ部表面筋電図,脳波の各モニターを装着した。被験者の鼻腔から19ゲージの硬膜外カテーテルを上咽頭に挿入・留置した。10分間仰臥位で安静にした後,鼻腔に留置したカテーテルから,蒸留水を呼気時に注入して咽頭反射(嚥下運動)を誘発した。嚥下運動は,オトガイ部表面筋電図の振幅の増加,呼吸運動の中断,喉頭の上下運動で確認した。P群の潜時は,覚醒時に比べ有意に延長し,嚥下回数は有意に減少した.T群では変化を認めなかった.プロポフォールはバルビタールと比較して,鎮静時の咽頭反射を抑制する傾向にあると考えられた<北陸麻酔誌>。
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