研究概要 |
以前に、筆者は電子顕微鏡を用い、ピロアンチモン酸法によって固定された低酸素負荷されたラット脳で、ミトコンドリアのカルシウムの局在を調べた。その結果、再酸素化の直後よりミトコンドリアの中のカルシウムの上昇は、30分後の方がより高かった。本実験では、30分間の低酸素混合ガス(5%O2-95%N2)に曝されたラット脳から、ミトコンドリアを分離し、カルシウムの含量を測定した。カルシウム測定は、Sims(Sims,1990)によって確立された方法を用いた。正常のラットの前脳から分離したミトコンドリアは、2.5±0.9 nmol/mgタンパクの値を示した。30分の低酸素負荷で、最も傷害を受けやすい海馬領域から分離したミトコンドリアのカルシウム含量は2倍に増加した。しかし、それほど脆弱ではない大脳皮質でも、同様なカルシウム増加が見られた。さらに大きなカルシウムの増加が、再酸素化の30分の後、両方の領域から分離したミトコンドリアの中で見えた。これは、先のピロアンチモン酸法による結果と一致する。 再酸素化の1時間には、ミトコンドリアのカルシウムは、両方の領域において減少傾向が見られた。しかし、海馬領域から分離したミトコンドリアのカルシウム含量は、6時間の再酸素化の後、および24時間後もまた増加した。この様に、低酸素負荷で傷害を受けやすいとされる海馬領域でカルシウム含量の増加が見られることから、カルシウムの増加は、神経傷害の過程で必須のステップであるかもしれない。しかし、虚血負荷の場合と異なり、低酸素負荷の場合はカルシウムの増加があるにも関わらず顕著な組織学的な傷害は見られない。しかし、高次機能である行動における変化が見いだされた。これは、24時間後も消失しなかった。
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