研究概要 |
Adriamycin(以下ADM)は,DNA依存性のRNA合成を阻害するため,これを神経線維に注入すると逆行性軸索輸送により神経核に取り込まれ,その神経細胞を変性させることが報告されている.神経破壊薬を神経ブロックに使用する場合,アルコールもしくはフェノールを用いている.しかし後根・後角が障害される脊髄損傷または三叉神経領域の帯状疱疹後神経痛などでは,障害部位に投与できなかった.ADMの特長を利用すれば,障害部位の末梢神経からADMを投与しても,除痛が期待できる.この方法を実用化するには,I.知覚過敏モデルの作成,II.ADMの投与により知覚過敏が軽減するか否か,またIII.ADMの注入自体により知覚過敏を生じないかどうかを検討する必要がある. Iについては,足底の知覚過敏状態を(1)坐骨神経結紮モデルおよび(2)坐骨神経切断モデルで評価した.すなわち,(1)では,一方の坐骨神経をバイクリル(3-0)^<TM>でゆるく結紮し,(2)では,坐骨神経を切断した.両群ともに両側の足底部へレーザー光により疼痛刺激を与え(plantar test)刺激開始から逃避するまでの時間(疼痛閾値:秒)を処置側と非処置側で比較した.testは,処置前,処置1,3および4週後に実施した.結果は,(1)では,処置1,3および4週後で処置群のほうが,閾値は有意に低下した.(2)では,1週後で逆に処置側のほうが,閾値は有意に高くなった.すなわち,坐骨神経結紮では,足底部が熱刺激に対し過敏になり,坐骨神経切断では鈍麻のことを示している.脊髄損傷または三叉神経領域の帯状疱疹後神経痛では,疼痛閾値が低下するので,坐骨神経結紮モデルでIIの実験を施行した. IIについては,(1)モデルに対し,坐骨神経結紮2週後にADMを結紮部より末梢の坐骨神経に投与して疼痛閾値の変化を評価した.処置1週後には,処置群が非処置群に比較して有意に低下したが,ADM投与後は,2群間の差はなくなった.すなわちADMの投与により足底部の過敏状態が軽減したと考えられた.IIIについては,ADMの投与自体が,疼痛閾値の変化を生じないかを評価した.ADM投与で有意な閾値の変化はなかった.しかし,処置後に,半年以上処置側の下肢麻痺を生じる例があった.すなわち,ADM投与は,運動麻痺を生じる可能性がある.
|