研究概要 |
本研究の直接の目的は吸入麻酔薬による記憶の固定〜保持促進作用の電気生理学的開明である。すなわち、マウスの海馬スライスにおいて予めLTPを生じせしめ、しかる後に吸入麻酔薬エンフルランを作用させ、LTPの消長を観察した。本研究の結果,以下のようにいくつかこまれでの行動学的実験で観察された記憶促進現象を支持する所見が得られた. 1.CA1領域におけるfield potentialに及ぼすエンフルランの影響 2%及び5%のエンフルラン溶液を20分間還流すると集合電位の大きさおよびEPSP slopeはほぼ濃度依存的に抑制された.麻酔薬をwashoutしていくと時間とともに回復し,2-30分でほぼ元のレベルに戻った.paired pulse facilitationの変化が一定でなかったため,この抑制がpresynaptic作用かpostsynaptic作用かは特定できなかった. 2.CA1領域における既成立の長期増強に及ぼすエンフルランの影響 100Hz,1secのテタヌス刺激を,10秒間隔で3回Schaffer側枝に与えることによって,CA1錐体細胞領域および樹状突起部のfield potentialにおいてLTPを成立させることができ,エンフルラン溶液を20分間還流すると集合電位の大きさおよびEPSP slopeはほぼ濃度依存的に抑制された.washoutにより多く(9/16)のスライスで元のレベルまで回復した.しかし,7/16のスライスで元のレベル以上に増大するものが認められた.長時間観察すると,不意に数倍のレベルまで自発的に増大を繰り返す場合があるが,この現象も行動実験での記憶促進現象を支持すると考えられた. 3.エンフルランが弱い高頻度刺激の後にも長期増強を生じさせる 弱い高頻度刺激により,続く強い高頻度刺激による長期増強は抑制されるが,弱い高頻度刺激の期間にエンフルランを作用させると続く強い高頻度刺激により長期増強が生じた. 4.エンフルランが後の長期増強を生じやすくする 初めに長期増強を起こさない程度の弱い高頻度刺激を与える.その後,エンフルランを作用させ,washoutし,回復した時点で,再び弱い高頻度刺激を加えると,エンフルラン作用前には生じなかった長期増強が生じた.ただし,まだ例数が少ないため確実ではない.
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