研究概要 |
脳低温法は,少なくとも動物実験(一過性前脳虚血モデル)においては,虚血ニューロンの保護には最も効果的であることが確実である。虚血後に開始する脳低温法のニューロン保護効果は,虚血侵襲の程度,低温の開始時期,持続時間,低温の程度の4因子で決定されると考えられ,この点についてスナネズミ-過性前脳虚血モデルを用い分析した。虚血再灌流1時間後より32℃の低脳温処置を開始し12時間後まで持続すると,有意なニューロン保護効果が観察され始め,24時間後まで延長すると顕著なニューロン保護効果が認められた。低温処置開始時期を次第に送らせ,虚血再灌流24時間後まで同様の低脳温処置を施すと,6時間後からの低脳温処置の開始では,もはやニューロン保護効果が観察されなかった。しかし,虚血再灌流6時間後から低脳温処置を開始しても,その持続時間を24時間,48時間と更に延長させると,明らかに残存ニューロン数が増加した。低温の程度としては,わずか1〜2℃の低温処置でも約50%のニューロンが生存し,35℃以下では顕著なニューロン保護効果が観察された。この低脳温法の脳保護作用機序として,ミクログリアの増生とニューロン障害性の高いアメーバ型への形態変化が低温処置により顕著に抑制されること,短時間の脳低温処置動物ではその抑制効果が弱いことなどの所見を得た。また,一過性のニューロン保護効果しか認められない短時間の脳低温処置とミクログリアの増殖抑制作用のあるプロペントフィリン(PPF)の併用投与により,慢性期の海馬CAlニューロンの脱落が抑止できた。さらに,ラット1時間の中大脳動脈閉塞モデルでも,虚血再灌流2,4,6時間後から33℃,24時間の脳低温処置により24時間後の大脳皮質梗塞体積が有意に減少し,脳低温処置のニューロン保護効果が確認された。
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