研究概要 |
脊髄損傷後の過活動膀胱の発生に膀胱カプサイシン感受性求心性神経の可塑性と神経成長因子(NGF)がどのように関与するのかを解明することを目的とした. 1) ラットの第8胸髄を完全切離し,膀胱機能の経時的変化を観察したところ,ヒトと同様に,脊髄損傷後、当初は排尿筋無反射となるが,術後4週までに徐々に反射性膀胱収縮(RC)が回復し、ついには膀胱過活動を示すことが確認できた. 2) 慢性脊髄損傷および正常ラットを用いて,カプサイシンおよびレジニフェラトキシンを膀胱内に注入した場合のRCに対する抑制効果を検討した.カプサイシン溶液を膀胱内に注入すると、いずれの群においても,膀胱充満によって誘発されるRCは用量依存的に少なくとも注入後24時間まで抑制された.レジニフェラトキシンも同様の抑制効果を示したが,その効力はカプサイシンの約100倍強かった. 3) 慢性脊髄損傷および正常ラットの脊髄クモ膜下腔内にニューロキニン(NK)受容体阻害薬を投与し、RCに対する効果を検討したところ、選択的NKl受容体阻害薬は用量依存的にRCを抑制したが、選択的NK2受容体阻害薬は効果を認めなかった。正常ラットにおいても、同様の結果で、2群間で各々の阻害薬の効果に有意差を認めなかった。 4) 過活動膀胱による難治性尿失禁を示す慢性脊髄障害患者6名を対象として,カプサイシン膀胱内注入療法(2mM,100ml,30分間)を行ったところ,全例で尿失禁は消失し,膀胱内圧検査上も過活動膀胱が抑制されることが確認できた.また,その抑制効果は少なくとも3カ月は持続した. 以上の結果から,脊髄損傷後の過活動膀胱の発生には膀胱カプサイシン感受性求心性神経の可塑性が関与することが示唆された.当初計画したNGFの関与については今後の課題としたい.
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