研究概要 |
平成9年度は,8-ヒドロキシデオキシグアノシンを酸化的ストレスによるDNA損傷のマーカーとして,精子の酸化DNA量をWHOの判定基準を満たす男性不妊患者19例と正常コントロール20例で比較検討を行った。その結果,男性不妊患者の精子核酸化DNA量はコントロール精子より有意に多く,男性不妊患者では精子核の酸化障害に起因するDNA損傷が増加している可能性が示唆された。また,男性不妊患者の精子核酸化DNA量は,ビタミンCやE等の高酸化剤の内服により減少した。 平成10年度は,男性不妊の原因の一つに精索静脈瘤などによる精巣温度の上昇が考えられていることから,熱ストレスによる造精障害における活性酸素の関与を解明するための基礎研究を行った。生後約40日令のラットから精細胞を分離し,熱ストレス(45℃,1時間)を加えると約13%のアポトーシス細胞が検出されるが,活性酸素のスキャベンジャーを添加後,熱ストレスを加えると,アポトーシス細胞の頻度は著明に減少した。また,キサンチン・オキシダーゼ活性酸素産生系により直接精細胞に酸化的ストレスを与えると,アポトーシスが誘導された。また,熱ストレスは細胞内の過酸化物質の濃度を上昇させた。 以上の結果は,男性不妊の発生過程における活性酸素の役割を具体的に明らかにしたもので,近年増加していると言われている男性不妊の治療法を開発する上で極めて重要な知見と考えられる。
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