研究概要 |
動物では第1次聴覚野以外にも音源位置に反応する部位が認められている(Middlebrooks,1994)が,音源定位そのものには,第1次聴覚野の存在が不可欠である(Jenkins,1984).ところが,第1次聴覚野がおそらく正常と思われるのに,音像定位のできない右側頭葉損傷の症例が報告されているので(Griffiths,1996),音像の空間位置の処理は,すくなくともヒトでは第1次聴覚野でない可能性がある.脳磁図による記録でMcEvoy等(1994)は,音像が対側にあるときに誘発反応の振幅が大きいことを認めたが,本質的には音の立ち上がりに対する反応とほとんど同じ細胞集団が反応していると結論している.しかしMori等(1995)は音像の位置や動きによっては若干異なる反応が生じることを観測している. そのような反応が第1次聴覚領に由来するものかどうかを調べるために,左右の耳に到達する時間差(ITD)をつけた相関疑似ランダムノイズによる仮想現実刺激(音像)を作製し,それを刺激として大脳皮質から脳磁図誘発記録を行っている.左右方向の音像の変化として聴取されるITDの変化から潜時約140msで脳磁図上にピークが見られ,記録脳と反対側の音像に対して大きな反応が見られた.推定電流双極子(ECD)の平均位置は,純音バーストと比べると,右で数mm前方,左で後方であった.純音バーストの反応の中心を第1次聴覚野と仮定すると,相関ノイズの音像定位に関わる部分の中心は第1次聴覚領ではない可能性がある.各被験者で,異なる場所の音像のECDの位置は異なるので,音の外空間が何らかの形でマップされている可能性がある.
|