研究概要 |
メニエール病をはじめとする内リンパ水腫関連疾患で血漿抗利尿ホルモン(ADH)が高値であることを臨床的に報告してきた.このADHが内リンパ水腫の発生に関与しているか否かを明らかにするために,モルモットにADHを投与した.モルモットにADHを投与すると内リンパ水腫が形成された.さらに,実験的に作成した内リンパ水腫動物(内リンパ嚢閉鎖により作成)にADHの拮抗剤を投与することによって内リンパ水腫が軽減することを明らかにした.これらのことより,内リンパ液の産生は,ホルモンによって制御を受けていると考えられる. このホルモンの作用部位として血管条中間細胞が予想され,単離辺縁細胞を用いてホルモンにより水輸送が何らかの影響を受けるか否かを明らかにする予定であった.しかし、辺縁細胞の単離ができておらず,現在も単離の改良を行っている.今後も引き続きADHが単離辺縁細胞におよぼす影響について研究を続ける予定である. その他の内リンパ水腫に関連した研究として,内リンパ水腫および血管条に関する基礎研究を行った.内リンパ水腫に関しては,実験的にモルモットの内リンパ腔に人工内リンパ液を注入し,蝸牛内静止電位の変化を測定した.蝸牛内静止電位は,人工内リンパ液注入により一過性に上昇する.また無酸素負荷によって蝸牛内静止電位における負の電位が減少することを明らかにした.血管条に関しての研究を以下に示す.血管条は,内リンパ液の産生と蝸牛内静止電位を産生している部位である.内リンパ液は高カリウムを特徴とし,蝸牛内静止電位は酸素依存性のNa-K-ATPaseにより産生されている.カリウムおよび酸素の供給とも毛細血管によって行われる.さらに,内リンパ液の制御をしていると考えられるADHも毛細血管によって内耳に作用する.この血管条内毛細血管の微細構造を砂ねずみとラットを用いて精査し,毛細血管の間に橋渡し構造が存在することを明らかにした.
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