研究概要 |
ヒルシュスプルング病の発生には、細胞外基質である複合糖質の異常が関与するとの仮説に基づき、レクチンを用いて胎児腸管ならびにヒルシュスプルング病腸管における複合糖質の分布を検討した。研究材料は、ラット胎仔、新生児、成体ラットの腸管およびヒルシュスプルング病患者の摘出腸管とした。使用レクチンは、ConA, RCA-1, WGA, PNA, SBA, UEA-1, DBA, LCA, PHA-L, DSA, GS-1, VVA, MPA, BPA, MAA, PSAである。 <結果>1)ラット腸管:アウエルバッハ神経叢におけるレクチンの反応パターンは、胎生17〜19日に反応増強を示し、以後同じ反応が持続するもの(ConA, DSA, MPA, RCA-1)、胎生15日から陽性反応があり、成体まで持続するもの(PSA, PHA-1, LCA, WGA,)、全経過を通じ全く反応のないもの(UEA-1, PNA, SBA, GS-1, VVA, BPA, DBA, MAA)の3タイプに分けられた。電顕観察では、神経節細胞の形式膜、核膜、ゴルジ装置の他、神経突起、シュワン細胞、平滑筋細胞の形式膜に反応局在が見られた。 2)ヒルシュスプルング病腸管:正常部腸管の平滑筋叢では、DSA, RCA-1,WGAが強陽性、無神経節腸管で中等度陽性と反応に差が見られた。 <結論>アウエルバッハ神経叢の分化が明らかとなる胎生17〜19日に一致してN-グルコシド型糖鎖構造が、神経叢とその周囲に増強することが示された。またヒルシュスプルング病腸管の平滑筋層でDSA, RCA-1の反応性の低下がみられ、アウエルバッハ神経叢の発生段階で、N-グルコシド型糖鎖を持つ複合糖質の異常が示唆された。今後は、ヒルシュスプルング病腸管におけるレクチンの局在について電顕的検索を行いたい。
|