研究概要 |
細胞増殖と細胞死(アポトーシス)の制御は,初期発生から個々の器官形成などの多細胞生物の生命現象において中心的役割を果たし,形態形成因子とよばれる蛋白因子によって制御されている。その一つとしてTGFβファミリーメンバーであるアクチビンが知られているが,アクチビンは,これらの活性を介して初期発生や肝臓再生において重要な役割を果たしている。 我々は,これまでアクチビンによる増殖抑制とアポトーシス誘導が観察されるHS-72マウスハイブリドーマ細胞を用いてアクチビンの細胞内分子シグナルの解析を行い,次のような研究成果をあげた。1)アクチビンの細胞内シグナルは,I型レセプターのうちAct-RIBを介すること,2)これによってサイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害因子であるp21^<CIP1/WAF1>の発現をmRNAレベルで誘導し,3)増加したp21^<CIP1/WAF1>はCDK4に結合して,CDK4の網膜芽細胞腫蛋白質(Rb)リン酸化活性を抑制し,その結果生じた低リン酸化型Rbは,増殖抑制効果(細胞周期Gl期停止)を引き起こすことを明らかにしてきた。平成10年度の本研究によりさらに,4)アクチビンによるAct-RIBの活性化はSmad2のC末端SSXSモチーフのセリン残基リン酸化を誘導すること,5)アクチビン刺激に対する負のフィードバックとして抑制型SmadであるSmad7の発現が誘導され,これによりSmad2リン酸化とp21^<CIP1/WAF1>発現が抑制されること,6)もう一つの抑制型SmadであるSmad6もアクチビンによる誘導されるが,アクチビンによるSmad2リン酸化とp21^<CIP1/WAF1>発現誘導は抑制しないことなどを明らかにした。アクチビンによる増殖抑制機構の解析は終了したが,現在さらにアポトーシス制御機構について研究が進んでいる。
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