研究概要 |
味蕾の細胞の生存には、神経の支配が必要不可欠である。神経細胞を切断すると味蕾は変性、消失し、神経が再生すると味蕾も再生する。われわれの1996年の研究で,神経切断時の味蕾の消失は、味蕾細胞のアポトーシスによる死であることがわかった。すなわち、味蕾の支配神経には味らいを維持しアポトーシスを抑制する栄養因子が含まれ、味蕾に放出されるものと思われる。そこでこの栄養因子が何かを探るためアポトーシスの誘導機構を解明することにした。 味蕾細胞死に関する遺伝子のうち、アポトーシスを抑制するbcl-2遺伝子の蛋白質Bcl-2の味蕾での発現について調べた。またbcl-2ファミリーのBcl-xについても調べた。成熟マウスの有郭乳頭について抗体を用いて免疫組織科学反応を行ったところ、味蕾細胞およびその周囲の上皮の全層はBcl-2,Bcl-xの両者とも同じように陽性反応を示した。さらにCaイオンを細胞内に流入させる作用のあるカリウムイオノフォアであるバリノマイシンをマウス有郭乳頭付近に注入し,アポトーシス核を検出するDNA nick end labeling報により調べたところ味蕾に陽性細胞が出現した。このことから、味蕾細胞のアポトーシスにはCaイオンの過剰な流入が関与することがわかった。また味蕾へ直接薬物を作用させる方法も確立させることが出来たので、現在、種々の増殖因子などを投与して、神経切断後の味蕾細胞死が防げるかどうかを検討中である。
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