研究概要 |
筆者はStreptococcus mutansのグルカン依存性凝集に関与するグルカン結合タンパク質をコードするgbpC遺伝子を同定していた.このグルカン依存性凝集という現象はある種のストレス条件下で培養されたときのみに認められるので,従来は,S.mutansはこの現象を示さないとされていた.筆者はグルカン依存性凝集に関与する遺伝子群を同定するため,インテグレーションベクターの一つであるpVA891をS.mutansの染色体にランダム挿入し,この現象を示さなくなった変異株をスクリーニングした.この方法でpVA891はキャンベル型の相同組換えによりホスト染色体DNAに挿入されその部位に存在する遺伝子を失活する.しかし,我々が得たほとんどの変異株ではキャンベル型の挿入失活は起こってなく,染色体DNAに再配列が認められた.しかも,それらのグルカン依存性凝集を示さなくなった変異株は完全なgbpC遺伝子を保持しており,染色体DNAに大きな重複が生じていた.そしてこの重複がこの形質の変化に関与していると考えられた.筆者はこの重複領域を解析することにより,S.mutansの任意の領域に大きな重複を導入出来ることを見いだした.そしてこの方法を用いて,60kbという大きな領域から,gbpC遺伝子を調節する690bpの一つの遺伝子gcrRを同定した.この遺伝子は2成分制御系のレスポンスレギュレータであった. 筆者はまた,S.mutansをキシリトール共存下で繰り返し継代培養を続けると強いグルカン依存性凝集を起こすポビュレーションが生じるという新しい現象を見いだした.この現象はgbpC遺伝子発現が構成的になり且つ約20倍に強発現していたことにより起こっていること,レポーター遺伝子を用いて明らかにした.更に興味深いことは,このポビュレーションは蔗糖存在下の試験管壁付着能が振とう培養すると減少していたという点である.これはプラークからS.mutansを除去するキシリトールの作用の一つかもしれない.
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