研究概要 |
本研究では,ヒトの口腔スピロヘータに由来するタンパク質あるいは遺伝子に注目し,分類に有用な分子を捉えることに主眼をおいた. 1. 成人性歯周炎患者から分離培養したスピロヘータG7201株について,形態学的,生化学的,免疫学的および遺伝子学的研究を行ったところ,新種であることが明確となり,Treponema mediumと命名・登録(ATCC700273)した. 2. T.denticolaとT.socranskii subsp buccaleにはI型,IV型あるいはV型コラーゲンと結合するタンパク質(CBP)が検出されたが、T.mediumにはほとんど検出されなかった.これらのCBPは菌体外膜の表層に局在していた.コラーゲン被覆表面への細菌付着について,小型スピロヘータの付着量はT.mediumのそれより有意に大であった。 3. T.mediumの16S rRNA遺伝子に特異的プライマーを使用したPCR法では最少10〜100のT.medium菌数で単一バンドのPCR産物を得た.供試した16S rRNA遺伝子プライマーでは,中型スピロヘータであるT.mediumとT.vincentii以外の菌種ではPCR産物は得られなかった.また,中程度〜重度歯周病患者由来の歯肉縁下歯垢の試料からT.mediumと同じ分子サイズのPCR産物が得られた. 4. T.denticolaがP.gingivalisの線毛の有無とは関係なく共凝集するのに対し,T.mediumは線毛欠損株とは凝集しなかった,線毛と特異的に結合する37kDaタンパク質がT.mediumの外膜表層に存在していることが明確となった. スピロヘータでは,特定の機能を持つ表層タンパク質について菌種間で質的差異が認められたことから,それらのタンパク質の合成遺伝子をマーカーとするPCR法により,従来の細菌の分離・培養を必要とせず,採取した歯垢材料のスピロヘータ種に関する情報を正確かつ迅速に得るシステムを確立することが期待される.
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