研究概要 |
歯髄組織に意図的にしかも能率的に修復象牙質を形成させるには,それに関わる歯髄細胞特異的な分化あるいは増殖因子を明らかにしなければならない。そして,修復象牙質の形成に必要な因子を歯髄細胞に発現させる必要がある。本研究では.1)ある特定の組織や細胞に発現する特異的な遺伝子を同定する方法を確立し,2)象牙質深部に窩洞を形成後に,歯髄組織に発現量の増加する特徴のある遺伝子をスクリーニングし,3)遺伝子またはその産物を象牙細管を経由して歯髄腔に到達させるための基礎データを得た。 1. 窩洞形成後に歯髄組織に発現する特徴的な遺伝子 歯髄組織は微量であるので,少量の組織から発現量の変動する遺伝子を捉える方法を確立した。そして,窩洞形成後に歯髄組織に発現する特ぇ的な遺伝子を,PCR法で増幅したcDNA断片として検出した。 2. 遺伝子またはその産物を象牙細管を経由して歯髄腔に到達させるためのモデル 生活歯髄を含む歯に窩洞形成を行った後に窩底に染色液を塗布して器官培養した。染色液は象牙細管を経由して歯髄腔の内壁にまで達していた。このことから,遺伝子またはその産物は,象牙細管を経由して歯髄に到達可能であることが示唆された。 3. 培養ヒト歯根膜線維芽細胞が特徴的に発現する遺伝子に関する研究 本細胞が特徴的に発現する遺伝子を同定することに成功した。この研究から,表現型が類似する歯根膜と歯肉の繊維芽細胞間では分化・増殖に関係する多くの因子を共通して発現していることが明確となった。これらの情報は,組織標本におけるsubtractive hybridization(SH)の応用に大いに貢献した。 4. 歯周病細菌Porphyromonas gingivalisの菌株間で異なる遺伝子 本菌の膿瘍形成に関連する遺伝子を染色体DNAからSHを用いて同定することに成功した。本成果は,SH法を真核生物へ応用するための基礎的データとなった。
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