研究概要 |
歯の表面に付着する細菌性プラークの蓄積は,微粒子としての細菌が固体としての歯の表面に対する物理化学相互作用による吸着によるものであり,界面の状態により大きく影響を受ける.本研究プロジェクトではフッ化炭素鎖を持つシランカップリング剤,(1H,1H,2H,2H-henicosafluorododesyl)triisocyanatosilane(10F2S-3I),ならびに(1H,1H,2H,2H-henicosafluorododesyl)trimethoxysilane(10F2S-3M)のエナメル質表面への改質効果を検討した. 鏡面研磨したウシエナメル質試料を10F2S-3I,10F2S-3Mおよび比較のため炭化水素鎖をもつdodesyltrimethoxysilane(10H2S-3M)を用い表面改質した改質群,正リン酸でエッチングした後,各シランで表面改質した前処理群,表面改質を施さない非改質群の3群に分けた.1)各群の接触角を測定し,表面自由エネルギーを算出したところ,10F2S-3Iおよび10F2S-3Mで改質した改質群および前処理群は,非改質群および10H2S-3M群に比較して有意に低く,エナメル質表面を不活性な状態に変化させることができた.2)粉末ハイドロキシアパタイト(HAP)および粉末ウシエナメル(BEP)を各シランで処理した改質群と,非改質群のホスビチン吸着量をgel permeation chromatographyで定量したところ,10F2S-3Iおよび10F2S-3Mで改質したHAPおよびBEPは非改質群および10H2S-3M群に比較して著明に吸着量が少なく,口腔内においても改質効果が十分発現する可能性が示された.3)改質エナメル質の耐酸性試験では,60分浸漬後のカルシウム溶出量は10F2S-3I,10F2S-3M改質群および前処理群が,非改質群および10H2S-3M群に比較して有意に少なく,SEMによる表面観察によっても耐酸性を付与することができた.4)10F2S-3Iを用いて実験を行ったin vitroでのS.mutans付着実験では,10F2S-3I改質群および前処理群の総付着S.mutans量は非改質群に比較して有意に少なく,in vivoでのプラーク付着試験においても10F2S-3I改質群および前処理群は,非改質群に比較してプラーク付着量が有意に少なかった.以上の研究成果より,ポリフルオロアルキルシランによるエナメル質表面改質はプラーク付着抑制に有効であり,口腔の健康維持に寄与する可能性が強く示唆された.
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